奈良は実は多彩な日本酒が作られる土地でもあります。北部、西部それぞれに個性豊かな銘柄がありますが、奥大和の桜井、宇陀にも味わい深い日本酒をつくる酒蔵が点在します。
今回は、桜井市下(しも)にある西内酒造の貴醸酒を紹介します。
三輪山(みわやま)の枕詞をご存知ですか?
近年はパワースポットとしても話題の三輪明神・大神神社(おおみわじんじゃ)。
ここは、桜井市三輪にある三輪山を拝する日本最古の神社です。上のカバー写真、中央に盛り上がっているのが三輪山です。
三輪山はまたの名を「三諸山(みむろやま)」とも呼ばれます。「みむろ(実醪)」は”酒のもと”のことをいい、古くから酒の神様としても信仰を集めていました。
そういった経緯があり、三輪山の枕詞は「うまさけ」です。万葉集には額田王が詠った「味酒 三輪乃山(うまさけみわのやま)」から始まる長歌があります。
聖林寺の国宝・十一面観音菩薩と大神神社
三輪山をのぞむ場所に、国宝・十一面観音菩薩を祀る聖林寺があります。
クラウドファンディングなどで改修資金を調達し、2022年7月に収蔵庫が完成したこと、収蔵庫の工事中は東京国立博物館や奈良国立博物館で十一面観音菩薩像の特別展を開催したことでも話題になりました。
こちらの写真は、東京芸術大学・朱若燐さんが制作した模刻です。
聖林寺の十一面観音菩薩は、もともと大神神社の神宮寺(神社に附属して建てられた仏教寺院)の大五輪寺の本尊だった仏像です。明治政府の神仏分離令による廃仏毀釈を逃れるために、大五輪寺と親交の深かった聖林寺に移されました。
この聖林寺や十一面観音菩薩については、また別の機会にでも。
西内酒造の貴醸酒とは
さて、本題のお酒の話です。
西内酒造はこの三輪山と聖林寺を結ぶ線上、聖林寺へ向かう旧道沿いにある酒蔵です。もともとはこの場所からさらに山間部の多武峰(とうのみね)にある談山神社(たんざんじんじゃ)の鳥居のそばで明治10年に創業したそうです。
西内酒造の看板商品は、貴醸酒、累醸酒、にごり酒で他の酒蔵とはちょっと趣が違います。
吟醸酒、純米酒、普通酒も製造、販売していますが、このお酒を寝かせて古酒にし、古酒に米と米麹をいれて発酵させたお酒が貴醸酒「談山 貴醸酒」です。
談山はお酒からさらに発酵させて作られた酒なので、独特の舌触りとまったりとした芳醇な甘い味わいが特徴です。ワインに例えると、貴腐ワインやアイスワインのポジションにあるお酒です。
「談山 貴醸酒」、2019年にはロンドンで開催されたIWC(International Wine Challenge)に出品され古酒部門で最高位のTrophy(トロフィー)を受賞しました。
西内酒造は、日本でも数少ない貴醸酒をつくる酒蔵です。そしてさらに、貴醸酒を用い、水を使わずに米と米麹を入れて発酵させた累醸酒もつくってらっしゃいます。
累醸酒は、貴醸酒を用いるので更に希少なお酒です。先日(2023年1月)西内酒造に伺ったときにお聞きすると、「いま寝かしてるんですよ。あと5年で出せるかどうか。味を見ながら出荷を判断するんです」と仰ってました。
聖林寺にお参りする際には、ぜひ西内酒造にも足を運んで「談山」と、もしあれば累醸酒を買い求めていただいて、味わっていただければ。